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「ボカシ」から見える報道の思考停止状態

文=林 香里
2つの結婚詐欺報道(各局) メタボ度5
*メタボ度とは、林香里がテレビ報道のメタボ度を5段階で診断。高いほど要注意。

秋から冬へ、テレビでは2人の女性容疑者がニュースを賑わしていた。都内の「結婚詐欺(34)」と鳥取県の「元ホステス(35)」。両方とも複数の男性を騙し、命が犠牲になった可能性が報道されている。私は、11月5日に初めて「元ホステス(35)」の報道を知ったときは、先に報道されていた「結婚詐欺(34)」が、最近誕生日が来て「(35)」になり、新たに鳥取県でも事件を起こしていたことが発覚したのかと勘違いした。けれどもこの2つの事件はまったく別モノだ。

私のような早トチリする人、いただろうか。ともかく、2つの事件は、容疑者がいずれもすでに詐欺容疑で逮捕されていること、複数の男性が被害者になっているらしいこと、睡眠導入剤などを使った手口が報道されていることなど類似点が多い。容疑者の実名と顔写真が報道されていないから、一層のこと紛らわしいのである。

しかし、ネットで調べてみると、どうやら一部の週刊誌やスポーツ新聞は、都内の事件のほうの容疑者の実名と顔写真は、すでに堂々と公開していた。なーんだ、またこのパターンか。

こうしたテレビ(と新聞)がつくる「私たち業界人は知っているけど、一般のあなたたちにはお知らせできません」状態。これは のマスメディア不信とネットの匿名空間をもっとも元気にさせる源泉だ。案の定、ネット空間では、この2人の女性の素性をめぐってさまざまな情報が飛び交っている。ネット情報は信用できない云々と文句を言う前に、そうした空間を作り出すことにメディア自身が加担していることを、この際しっかり自覚してほしい。

この事件で奇妙なのは、亡くなった複数の被害男性の一部が、繰り返し実名・顔写真入りで報道されていること。これは、匿名で顔写真につねにボカシが入る容疑者の扱いとは対照的だ。また、鳥取の事件では、複数の被害者のうち、一部だけ匿名になっていることも不思議だ。同じ事件で報道の方針がばらばらなのはなぜなのだろう。

ここで誤解を招かないように断っておくが、かねてから、私は、事件や事故の報道は必要最小限にとどめ、さらに被害者、加害者ともに「原則匿名」にすべきと主張してきた。これに対して、「報道の使命は、人々の知る権利に奉仕すること。当局の捜査に対するチェック機能となること」だから、事件報道は必要というメディア側の主張も耳にタコができるほど聞いてきた。では、この詐欺事件はどうなのか。実名報道に原則反対している私でさえ、連日の報道に接するたびに、視聴者として匿名の理由を知りたくなってしまう。

とにかく、容疑者の顔と名前以外ならば、どんな些細なプライバシーでもじゃんじゃん報道するテレビの今の状態はどう考えてもおかしい。これでは、事件関係者や視聴者のことを考えずに、業界側が当局に馴致されて情報を選別していると批判されても仕方がないだろう。

ということで、2つの事件報道は、業界横並びで、匿名/実名の説明責任を果たさず、興味本位に周辺情報を垂れ流す栄養失調状態。なので、おもわずブタでなくガイコツを5つ献上したくなったほどなのだ!

はやし・かおり 東京大学大学院情報学環教授。専門はジャーナリズム研究。激動の2009年も終わり。“ブタなし”報道とは何か。これ案外、哲学的問いだと改めて振り返ってます。

(GALAC2010年1月号掲載 、http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/galac-20091208-01/1.htm

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