誰もがあこがれるピンストライプのユニホームを脱ぎ、エンゼルスへ移籍する松井秀喜外野手(35)。その苦渋の決断とは対照的に、えびす顔なのがエンゼルスの球団首脳ではないか。1年650万ドル(約5億7500万円)というヤンキース時代の約半分の年俸で契約。ゴジラ獲得の裏には、年間1億ドル(約89億円)ともいわれ、莫大な経済効果を見込んだ“天使”のしたたかな経営戦略があった。
【イチローとの直接対決も】
1961年のリーグ拡張で新設されたエンゼルスは、ロサンゼルス市内の名門ドジャースに人気、実力ともに後れをとってきた。しかし、実業家のオーナー、アルトゥーロ・モレノ氏がチケット代や、球場内で販売するビール、球団グッズの低価格化などでファン層の拡大に成功。並行して積極的な補強でチームも強化。2002年にはワールドシリーズを制覇するなど優勝争いの常連となり、観客動員数を大きく伸ばした。
04年以降はレギュラーシーズンの平均観客動員数は4万人を超え、シーズン入場者数は約340万人とリーグ有数の人気球団に成長した。05年からチーム名にロサンゼルスの地名を加え、「ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム」に変更するイメージ戦略も成功し、安定した人気を誇っている。
その商売、戦略にたけたエンゼルスの松井獲得作戦は、落ち目の主砲ゲレロ外野手の穴を埋めるだけでなく、綿密なソロバン勘定があることも見逃せない。ジャパンマネーを背負ってくる松井と6億円足らずで契約できるなら格安だ。
カリフォルニア州オレンジ郡にある人口約33万人のアナハイム。ロサンゼルス市の南東45キロに位置し、ロスからは車で1時間の距離にある。温暖な気候とディズニーランドがあることで、年間2000万人の観光客が訪れる。日本人街があるロスほどではないが、人口の12%はアジア系が占めるだけに、日本人には親しみやすい土地柄だ。
日本人から絶大な支持を得るゴジラの西海岸上陸。ファンとメディアが押し掛け、沸き返ることは想像に難くない。イチローがいる同じア・リーグ西地区のマリナーズとの直接対決は、もう大騒ぎとなるだろう。
日本からの距離も近くなる。成田からロスは10時間程度のフライトで到着。これまでのニューヨークより5時間近く短縮される。渡航にかかる費用も5日間で8万円程度のパックがあり手ごろ感があるロスに比べ、ニューヨークは一般的に5-10万円も割高。「一度、見に行ってみようか」と思い立つファンも多いことだろう。松井のエンゼルス移籍報道を受けて、さっそく日米の旅行会社は、エンゼルス戦の観戦ツアーとディズニーランド観光を組み合わせたツアー商品の売り出し検討を開始した。
松井の代理人のアーン・テレム氏は、「松井と契約することは付加価値を生む。松井を通してスポンサーやマーケティング関係の収入が球団に毎年100万ドル単位で入っている。広告では、トヨタ、ソニー、読売新聞など、大手日系企業6社から球団に毎年1億円以上の収入が入る」と松井の経済的パワーをアピールしていた。
松井がヤンキース在籍中には、年間1000万ドル(約8億9000万円)の日本からの副収入が球団にもたらされていると言われていた。ヤンキースに入団した2003年の経済効果は約1億ドル(89億円)と試算された。球場のグッズ売り場では100-200ドル(8900-1万7800円)以上するキャラクター商品が飛ぶように売れたのだ。
松井の持つ経済効果は日本人選手の中でも大きく、イチローのマリナーズ入団時よりも松井の方が上回っていたといわれている。レッドソックスの松坂の場合は、入団した07年の日本企業からの広告収入は90万ドル(8900万円)にとどまった。5日に1回しか登板しない先発投手の経済効果は17億円程度。松坂獲得に計100億円を費やしたレッドソックスが元を取ったかどうかは、あやしいところだ。それほど松井の持つ潜在的なパワーは大きいのだ。
ヤンキースのキャッシュマンGMは松井の契約交渉に際して、松井の付加価値は無視することを公言していた。「松井とともに日本企業の広告がなくなったとしても代わりに入る企業はある」と強気だった。しかし…。
たった6億円の投資で、100億円近い経済効果を-。「スモールベースボール」を掲げて“効率”を重んじる知将ソーシア監督の野球そのままの経営戦略だ。エンゼルスのウハウハぶりを見て、天下のヤンキースが地団駄を踏むことになるかもしれない。
2009年12月16日 16時22分 夕刊フジ
(MSNスポーツ、http://sports.jp.msn.com/article/article.aspx/articleid=485798/)
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